判断で止まるAI開発-ジャッジAIとループエンジニアリング
判断で止まるAI開発 — 判断AI(Jev)と、ループ/グラフエンジニアリング
AIは速い。止まるのは人間の判断のところ
AI開発をしていると、人間が判断する場面がいくつも出てくる。
AIのスピードは非常に速い。けれど、判断を求められたところで毎回止まる。速度の上限を決めているのは、生成ではなく人間の判断待ちになっている。
先日、ある経営者と話していて、いわゆる「AI疲れ」を目の当たりにした。仕事を振られ続けて休めず、ヘトヘトになっていた。AIが速くなるほど、判断が人に集中する。判断が詰まるだけでなく、人が消耗する。プロジェクト管理ツールとは別の問題として、ここは先に手を付けたい。
判断だけをするAI — Jev
この詰まりに対する一つの答えが、判断に特化したモデルだと思う。2026年9月に TypeSafe AI が公開した Jev がそれにあたる。
- 文章は生成しない。型の決まった「判断」と、選択肢ごとの確率(確信度)を返す
- 速く、安い(公称で数百ミリ秒、出力は課金なし)
- 得意なのは、狭くて型が決まった判断を大量にやる場面(承認/拒否、分類、ルーティング、合否判定)
- 重大で前例のない判断は、人に回す
使い方の型としては、「確信度が高ければそのまま採用し、低ければ強い判断者(または人)にエスカレーションする」という形が有力だ。人がすべてを見るのではなく、迷う分だけ人に来る。
どのレイヤーに挟むか
もう一つの論点は、使い方だ。判断のたびにコピペして呼び出すのでは、結局また人が詰まる。いま動いているエージェントの内側に挟み込む必要がある。
自分の整理では、次の3つの層に分けて考えている。
| 層 | 挟む場所 | 例 |
|---|---|---|
| Harness | エージェントのフック(hooks) | 権限確認の自動承認/拒否、ツール実行のゲート、完了の検査 |
| Loop | 継続・停止・エスカレーションの分岐 | 受け入れ条件を満たしたか、同じ失敗の繰り返しか、人に聞くか |
| Graph | 分岐のルーティング | どのモデル/どのエージェントに回すか |
組み込み方は、hooks(自動で呼ぶ)、MCP(ツールとして呼ぶ)、skill・plugin(まとめて配る)のどれか。すでにコミュニティ製の連携がいくつか出ているが、第三者製なので、入れる前にコードを読み、何を外部に送るかを先に決めておく。
積み上がっていく「〇〇エンジニアリング」
最近の呼び名は、同じ階層の別名ではなく、積み上がる層として整理するとわかりやすい。
Prompt → Context → Harness → Loop → Graph
- Prompt / Context:1回のモデル呼び出しに何を渡すか
- Harness:モデルの周りの足場。ツール、権限、制御、実行環境。手綱を持って進める
- Loop:作業を繰り返し、検証し、再試行・エスカレーション・停止する設計。「自信ではなく証拠でループする」
- Graph:次にどのステップ/エージェントが動けるかを、ノードと辺で明示する設計。分岐、合流、状態遷移
ループは、自分に戻る辺を持つ1ノードのグラフと見なせる。つまりグラフはループを置き換えるものではなく、その上の階だ。
人の位置:in / on / out of the loop
ループの中での人の位置には3つの段階がある。
- Human in the loop — 人が各ステップに入って承認する
- Human on the loop — 人は外から監督し、必要なときだけ介入する
- Human out of the loop — 人は介入せず、AIが自律的に回る
開発の現場は、この順に進んでいくだろうと思っている。いま止まっているのは、結局レビューだ。判断AIは、in から on へ動かすための部品になる。
いちばん新しいのは Graph
この並びで最も新しいのは Graph Engineering。2026年夏から急に使われ始め、サーベイ論文も出たが、用語としてはまだ固まっていない。①エージェントの実行グラフ、②ループ同士のネットワーク、③知識・記憶のグラフ、と複数の意味で使われている。ここで言うのは①。
向くのは、分岐・並列・承認・リカバリ経路・複数の専門エージェントがある場面。単純な課題までグラフにする必要はなく、最もシンプルな構成から始めるのが基本だ。
質問攻めか、提案に反応するか
文脈が混乱して、開発が訳の分からないことになっているとき、整理のために使えるスキルがある。
- grill-me:計画や設計を、AIが質問攻めにして詰める
- grill-with-docs:同じ手法を、プロジェクトの用語集・既存ドキュメントに照らして行い、CONTEXT.md や ADR を更新しながら進める
文脈の整理が目的なら grill-with-docs が合う。ただし質問が多く、受け身で流して答えると効果が落ちる。
逆向きのやり方が「赤ペン」型だ。AIに先に調べさせ、結論と選択肢をHTMLで見せてもらい、人は選ぶか赤を入れるかだけをする。質問に答え続けるより、出てきたものに反応するほうが、人にはずっと楽だという。頭の中がぼんやりしているなら赤ペン、要件が固まっていて漏れを潰したいなら質問攻め、という使い分けになる。
akapen という名前のツールは複数あり、Markdownにインラインでコメントを付けてエージェントに渡すレビューツールや、実装前の問い出しをラウンド制で行うスキルなどがある。導入先(CLIのエージェントか、デスクトップアプリか)によって使える形が変わる。
今日やること
- 判断AIを、動いているエージェントの内側に組み込む
- ループエンジニアリングをマスターし、その上のグラフまで押さえる
- ADEの最新トレンドを見る
- 文脈の整理に、質問攻め系スキルを入れる
使い方を進化させるのは、ツールの進化に追いつくための仕事だ。
出典
- TypeSafe Jev(OpenRouter)
- Jev vs LLM-as-a-Judge
- Agent Harness vs Loop vs Graph Engineering
- From Agent Harness to System Intelligence(TrueFoundry)
- What Is Graph Engineering for AI Agents?
- grill-me skill guide
- HTMLの「赤ペン先生」(note)